3,幻影 下


誰がどう見ようと紅蓮王に間違いはなかった。

兵士は自分の目を疑い、何度も目をこする。それでも紅蓮王は幻のように消えることはなかった。

それでも、兵士は自分の瞳に映る紅蓮王のことを信じることができない。

確かに兵士は、紅蓮王が侵入者から吐き出された青白い炎に包まれるのを見た。 そしてドロドロに溶け、黒い塊になるのを確かに見たから。

「え……?な、んで?」

本来なら王が生きていたので喜んでいいはずなのに、兵士は驚きそして疑いしか思うことができない。

隣ではカインが穏やかに慌てた兵士を観察していた。

そんなカインに気づかない兵士は、食い入るように紅蓮王を凝視し続けた。

「……59番」

突然カインが兵士に言った。あまりにも突然のことに兵士はカインが言った言葉を理解することができない。

うわごとの様に兵士は59といい続け、ようやく本来の意味を理解することができた。

「59番……幻影詠唱?」

「そうだ。59番、すなわち幻影詠唱を唱えよ。と、いったのだよ」

「そうだったのですか……。あれ?カイン殿に頼むよりも王自身で唱えることもできたのでは?」

もっともな意見だった。なにもカインに頼むよりも紅蓮王自身が唱えればよかった。それに紅蓮王は己で解決できることは、何でも己ですることが多かった。

「はぁ……。まぁ仕方ないな」

何故カインが落胆し、勝手に納得したので兵士には理解できるはずがなかった。

「あのお方、紅蓮王というお方は決して心の顔を見せることはない。この私でも見分けるのに苦労し未だにわからない時がある。 しかし今の紅蓮王はとてもわかり易い。今までで一番といっても過言ではない」

カインは紅蓮王を見て、そのまま視線を外すことなく、兵士に説明を始める。

「お前も魔法を学んだ時、条件など一通り学んだだろう?」

いくら兵士といえども、これまで剣術ばかり学んできたわけではない。もちろん剣術を重点的に学んではきたが、同時に魔法も学ばなければいけなかった。 この兵士が、剣術ばかり学べば、今の兵士より強くなるであろう。ただし、それは剣術にだけ当てはまる。
どんなに剣の使い方がとてもうまくても、相手が多彩な魔法を使ってきたら簡単に殺されてしまう。ただ一つに、特化していれば、殺し合いに勝てるわけではないのだから。

「魔法は、使う者の精神状態によって決まる。多少精神が混乱しても、魔力の供給が安定しないが、それなりに発動できる。」

そこでカインは一呼吸おき、目を細めた。そこには、不安があふれていると兵士は勝手に解釈していたが、はずれてはいない。

「紅蓮王は今、精神がとても不安定だ。こんな状態で幻影の術を唱えたところで、見破られるのがおちだ。だから私に補助を頼まれたのだよ」

もっとも、生前に戦神とまで呼ばれた王に、私の術が効いたのも奇跡だがな。と、呟くカインは苦い顔をした。

紅蓮王と侵入者の死闘は再開されようとしていた。それを見ているカインと兵士には、もう関わることのできない死闘が……。


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